
宇宙での食事、それは想像以上に困難を極めるものらしい。
地球上では、ランチに新鮮なサラダを頬張る光景は日常的だ。しかし、もしあなたが宇宙飛行士だったら?サラダを食べるのは、ちょっと待った方がいいかもしれない。なぜなら、宇宙で育った植物には、驚くほど多くの細菌が存在するようなのだ。宇宙サラダは、見た目こそ魅力的だが、その健康リスクは決して無視できない。
宇宙でのサラダ事情|ISSの「Veggie」

国際宇宙ステーション(ISS)には、「Veggie」と呼ばれる特別な菜園がある。そこでは、レタス、白菜、レッドロシアンケールといった野菜たちが栽培されている。これらの野菜は、宇宙飛行士たちにとって貴重な水分補給源であり、新鮮な食感は、宇宙食生活における数少ない喜びの一つだ。
しかし、最新の研究結果は、私たちに衝撃的な事実を突きつけた。宇宙空間を模倣した微小重力環境で育った植物は、大腸菌やサルモネラ菌といった細菌に対して、非常に脆弱であることが判明したのだ。
細菌感染のリスク

学術誌「Scientific Reports」に掲載された論文によると、「クリノスタット」と呼ばれる模擬微小重力実験装置内で植物を回転させながら栽培すると、植物は自身の平衡感覚を失い、上下の区別がつかなくなるという。植物は、重力を感知する細胞を持ち、それによって根を下に、茎を上に伸ばすことができる。また、葉や茎には「気孔」と呼ばれる小さな穴があり、二酸化炭素、水、酸素の交換を担っている。通常、植物は細菌などのストレスを感知すると防御機構を働かせるが、重力感覚が狂うと、ストレスを感じても気孔が開いたままになり、防御機能が十分に発揮されなくなる。
この実験結果から、ISSのような模擬微小重力環境下では、サルモネラ菌などの細菌が葉の組織に容易に侵入する可能性があることが示唆された。
栄養価は同じでも、細菌量は桁違い?
2020年に発表された別の研究では、2014年から2016年にかけてISSで栽培されたレタスの分析結果が報告されている。それによると、栄養価は地球産のレタスと同等である一方、細菌数は著しく高い傾向が見られた。
ISSのVeggieシステムでは、土の代わりにセラミックソイルと肥料を詰めたピローが使用される。種は真空パックされた状態でピローに植えられ、ピローは給水機能を持つ根マットの上に置かれ、伸縮性のあるロープで固定される。しかし、このような厳重な対策を講じても、人間が同じ空間にいれば、植物は細菌や病原体に感染してしまうリスクがあるのだ。
安全な宇宙サラダへの挑戦

研究者たちは、遺伝子操作によって宇宙でも気孔を閉じることができる植物の開発を提案している。実際、異なる遺伝子を持つレタスを模擬微小重力環境で栽培し、その反応を比較する実験も進められている。
「もし気孔が閉じた状態のレタスと、開いた状態のレタスを比較できれば、両者の遺伝子を比較検討できるだろう」と、デラウェア大学の植物生物学教授であり、論文の共著者であるハーシュ・バイス氏は語る。そして、「感染症の発生によってミッションが失敗するような事態は、絶対に避けなければならない」ともコメント。
宇宙でサラダを食べるという行為には、このようなリスクが潜んでいるとは……。地球で食べるサラダに、改めて感謝の念を抱かずにはいられない。