人類が宇宙探査の道を切り拓き、やがては宇宙旅行や移住が現実のものとなる未来。しかし、その道のりは決して平坦ではありません。宇宙船の開発コスト、惑星における生活基盤の整備、食料や燃料の確保、宇宙空間での人体への影響、そして倫理的な問題など、解決すべき課題は山積しています。そして、これらの課題に加えて、新たに浮上したのが「宇宙医薬品の消費期限」という問題です。
消費期限3年という壁

宇宙旅行中、頭痛や腹痛に見舞われることは十分に考えられます。そのため、宇宙でも地球と同じように、医薬品の常備は不可欠です。国際宇宙ステーション(ISS)では、106種類もの医薬品が常備されているといいます。しかし、デューク大学医学部の研究チームが発表した論文によると、火星探査旅行を想定した場合、これらの医薬品の消費期限が大きな問題となることが明らかになりました。
研究チームの警告と課題

研究チームは、火星探査旅行に必要な期間を往復で3年間と仮定。ISSに常備されている医薬品のうち、消費期限に関するデータが判明した91種類のうち、実に54種類が36ヶ月以内に期限切れを迎えることが分かったのです。特に、アレルギー薬や目薬など、2年で期限切れとなるものも少なくありません。研究を主導したダニエル・バックランド助教授は、プレスリリースで次のように述べています。
「期限切れの薬が直ちに効力を失うわけではありません。しかし、家庭で放置されている期限切れの薬を服用すべきでないのと同様に、宇宙でも期限切れの薬の使用は避けるべきです。宇宙探査機関は、期限切れによる効力低下に対する対策を講じる必要があります。」
宇宙環境が医薬品に与える未知の影響
さらに、宇宙空間特有の微重力環境が医薬品の劣化に与える影響は、ほとんど解明されていません。宇宙は放射線レベルも高く、地球とは全く異なる環境です。そのため、医薬品の消費期限が想定よりも早く到来する可能性も否定できません。研究チームは、医薬品が宇宙探査ミッションにおける宇宙飛行士の健康維持とパフォーマンスの根幹をなすものであると指摘し、この問題の重要性を強調しています。この研究成果は、学術誌「NPJ Microgravity」に掲載されています。
火星へ2ヶ月で行ける未来?

微重力下での医薬品の効力や劣化に関する研究、そして長期保存が可能な医薬品の開発はもちろんのこと、移動時間の短縮も重要な課題です。NASAの革新的先進概念プログラム(NIAC)で研究が進められている「パルスプラズマロケット」が実用化されれば、火星までわずか2ヶ月で到達できる可能性があります。宇宙探査の道のりは、数々の課題と、それを克服するための革新的なアイデアに満ちています。